

シェイクスピアって稽古でよく聞くけど、実際どんな人なの?
舞台の稽古場で「シェイクスピアを読め」と言われたことはありませんか?
でも、教科書で習った「偉い劇作家」という印象しかなく、なぜそれほど重要なのかピンとこない、
という方も多いと思います。
実は、シェイクスピアの作品は400年以上経った今でも世界中の劇場で上演され続けています。
それにはちゃんとした理由があります。
今回は、舞台俳優を目指す視点から「シェイクスピアとはどんな人か」をわかりやすくお伝えします。

シェイクスピアの生涯
生まれと若き日
ウィリアム・シェイクスピアは、1564年にイングランド中部の小さな町、ストラトフォード・アポン・エイヴォンで生まれました。
父は手袋職人で、決して裕福とは言えない家庭でした。グラマースクール(文法学校)でラテン語や修辞学を学んだとされていますが、大学には進学していません。
18歳で8歳年上のアン・ハサウェイと結婚し、3人の子どもをもうけます。その後、ロンドンに出てきて劇作家・俳優として活動を始めました。
ロンドンでの活躍
ロンドンに出たシェイクスピアは、劇団「グローブ座」の共同経営者・座付き作家として頭角を現します。
当時の演劇は庶民から貴族まで楽しむ大衆エンターテイメントでした。シェイクスピアはその中で
喜劇・悲劇・史劇と幅広いジャンルを手がけ、約37本もの戯曲を書き上げます。
エリザベス一世やジェームズ一世の宮廷でも上演されるほど評価が高まり、当時の演劇界の中心人物となっていきました。
晩年と死
1610年ごろに故郷ストラトフォードに戻り、1616年に52歳で亡くなります。
亡くなるまでに書き残した作品は、後にファースト・フォリオとしてまとめられ、世界中に広まっていきました。
なぜ舞台俳優はシェイクスピアを学ぶのか
人間の感情の「原型」が詰まっている
シェイクスピアの作品には、愛・嫉妬・野心・後悔・友情・裏切り——
あらゆる人間の感情が凝縮されています。
現場では「シェイクスピアを演じると、人間の本質を理解できる」とよく言われます。それは、感情の起伏が非常に大きく、演じる側に強度が求められるからです。
ハムレットの苦悩、マクベスの野心、ロミオとジュリエットの純愛——これらは時代を超えて、現代の観客の心にも届きます。
「言葉」で演じる力を鍛えられる
シェイクスピアの台詞はほとんどが詩(韻文)で書かれています。リズム・強弱・間を意識しながら言葉を届ける訓練は、現代劇でも必ず活きてくる基礎力になります。
稽古場でシェイクスピアを扱うのは、テキスト読解力・発声力・表現力を同時に鍛えるための最良のテキストだからです。
世界共通の「演劇語」として機能する
世界中の演劇学校でシェイクスピアが必修とされているのは、共通言語として機能するからです。
海外のオーディションやワークショップでも「ハムレットのソリロクィ(独白)を準備してきてください」という指定は珍しくありません。
舞台俳優として国際的な場に立ちたいなら、シェイクスピアは避けて通れません。
シェイクスピアを身近に感じるために
「でも難しそう……」と思う方も多いと思います。確かに原文の英語や古い翻訳は読みにくいです。
まず松岡和子訳(ちくま文庫)などの読みやすい現代語訳から入ることをおすすめします。
また、映画版や舞台映像も数多くあるので、読む前に映像で見てから台本を読むのも効果的です。
現場でも「難しいから敬遠」するより「難しいけど挑戦する」という姿勢を持つ俳優のほうが、確実に伸びます。
今日からできること
シェイクスピアを「自分ごと」にするために、まず小さな一歩を踏み出しましょう。
- 映画版で一作品を観る
『ハムレット』(1996年 ケネス・ブラナー版)や『ロミオ&ジュリエット』(1996年 バズ・ラーマン版)など、映像から入るのがおすすめです。まず「物語」として楽しんでみてください。 - 読みやすい翻訳版を一冊手に入れる
松岡和子訳のちくま文庫版は台詞のリズムが心地よく、舞台俳優志望の方に人気があります。特に『ハムレット』か『マクベス』から読み始めるのが定番です。 - 有名な独白を一つ暗記してみる
「To be, or not to be.」(ハムレット第三幕)などの有名な独白を一つ選んで、日本語訳で暗記してみましょう。稽古場でシェイクスピアが話題になったとき、必ず役に立ちます。 - シェイクスピア作品の舞台を観に行く
日本でも文学座・新国立劇場・シアターコクーンなどで定期的に上演されています。プロの役者が「言葉をどう使うか」を生で観ることが、最高の勉強になります。
まとめ:シェイクスピアは「過去の遺物」じゃない
シェイクスピアは400年前の人ですが、その作品は今この瞬間も世界中で上演され続けています。
それは、人間の感情の本質を描いているから。そして、演じる者に強度と深みを求めるからです。
舞台俳優を目指すなら、シェイクスピアを「難しい古典」ではなく「強くなれるテキスト」として向き合ってみてください。
あなたの舞台への情熱を、心から応援しています。
俳優出身の劇作家という強み
シェイクスピアを学ぶうえで見逃せないのが、彼自身が俳優だったという事実です。ロンドンの劇団で舞台に立ちながら台本を書いていた彼の作品は、机上の文学ではなく「役者が言いやすく、演じやすい」ように作られています。
実際に声に出して読むと、長ゼリフでも息継ぎの位置が自然に設計されていることに気づきます。感情が高ぶる場面では言葉のリズムが速くなり、独白では観客に語りかける間が用意されている。400年前の台本なのに、俳優の身体を知り尽くした実用性が息づいているのです。
だからこそシェイクスピアは「読む」だけではもったいない作家です。1場面でいいので、ぜひ声に出して演じるつもりで読んでみてください。ページの上では難解に見えた言葉が、口に乗せた瞬間に生きた感情として動き出す体験ができるはずです。
日本におけるシェイクスピア
シェイクスピアは日本の演劇界でも特別な存在です。明治期に翻訳紹介されて以来、新劇・商業演劇・小劇場まであらゆる場所で上演され続け、蜷川幸雄さんの演出作品が世界的に評価されるなど、日本独自のシェイクスピア上演の伝統も育ってきました。
現在も、大劇場での豪華なプロダクションから、若手劇団による斬新な翻案まで、日本のどこかで常にシェイクスピアが上演されているといっていいほどです。つまり俳優にとっては「いつか必ず出会う作家」。オーディションの課題や稽古の教材として登場する機会も多く、基礎教養として知っておいて損はありません。
よくある質問
Q. 英語で読めないと意味がないですか?
いいえ。日本の舞台で上演されるのは日本語訳ですから、まず日本語で親しめば十分です。翻訳は複数の定番があり、訳者ごとに言葉の質感が違うので、読み比べると「言葉を選ぶ」感覚が磨かれます。原文の韻律に興味が湧いたら、有名な独白だけ英語で聴いてみるのも刺激になります。
Q. 作品数が多すぎてどれから手を付ければ…
四大悲劇(ハムレット・オセロー・リア王・マクベス)か、喜劇なら「夏の夜の夢」が定番の入り口です。映画化・映像化作品も多いので、まず映像で物語を掴んでから戯曲を読むと挫折しにくくなります。
Q. セリフが大げさで現代の演技に合わない気がします
シェイクスピアの言葉は確かに詩的で密度が高いですが、それは「感情の大きさ」を言葉が担っているからです。現代劇が沈黙や仕草で表すものを、彼は言葉で表現しました。この違いを理解すると、大げさなのではなく「言葉で感情を生きる」別の技術体系なのだとわかります。この技術は発声・滑舌・言葉の説得力を鍛える最高のトレーニングになります。
今日からできること
①四大悲劇か「夏の夜の夢」の映像作品を1本観る
②気に入った独白をひとつ選び、毎日音読してみる
③シェイクスピア上演情報を検索し、観劇予定を入れる
④「to be, or not to be」など有名なセリフの複数の翻訳を見比べてみる
400年間、世界中の俳優が挑み続けてきた高峰は、あなたの挑戦も待っています。まず一歩、登り始めてみましょう。
シェイクスピア作品の具体的な特徴と演じるときの基礎知識は、「シェイクスピア作品の特徴とは」で詳しく解説しています。人物を知り、作品を知り、そして演じる。その循環の中で、この偉大な先輩はあなたの演技の師匠になってくれるはずです。
「謎の多い人生」が教えてくれること
シェイクスピアの生涯には、記録の残っていない空白の期間があり、そもそも本当に一人の人物がすべての作品を書いたのかという議論さえあります。しかし俳優にとって大切なのは、伝記の正確さよりも「作品に刻まれた人間観察の深さ」です。
王も道化も、殺人者も恋人も、老人も少女も——彼の筆はあらゆる人間を、善悪で裁かずに生き生きと描きました。この「どんな人間も面白がる目」こそ、俳優が見習うべき姿勢です。役作りに行き詰まったとき、シェイクスピアならこの人物をどう描くだろうと考えてみると、視界が開けることがあります。
また、彼は当時の流行や観客の好みに合わせて作風を変え続けた、したたかな職業人でもありました。芸術性と大衆性の両立という、現代の俳優にも突きつけられる課題に、400年前の先輩はすでに答えを出していたのです。
最後にひとつ。シェイクスピアを「教養として知らなきゃいけない偉人」と構える必要はありません。彼の劇場は当時の大衆娯楽の最前線で、笑いあり、剣戟あり、恋愛あり、幽霊まで出てくるエンターテインメントの塊でした。今のドラマや映画と同じ感覚で、まず楽しむこと。楽しんだ先に、学びは勝手についてきます。あなたとシェイクスピアの出会いが、幸せなものになりますように。
この記事が、あなたの本棚に一冊のシェイクスピアが加わるきっかけになれば嬉しいです。舞台で彼の言葉を口にする日を目指して、今日から少しずつ。応援しています。


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