

稽古場でみんなが使う言葉の意味がわからなくて、質問するのも恥ずかしい……
稽古場に入ったばかりのころ、飛び交う専門用語に戸惑った経験はありませんか?
「ハケて」「バミって」「ケコミ入れて」——知らない言葉ばかりで、聞き返すタイミングも掴めなかったりします。
今回は、稽古場や舞台現場でよく使われる用語を、実際の現場感覚でわかりやすく解説します。一度覚えてしまえば、稽古がぐっとスムーズになります。
舞台の「位置・方向」に関する用語
上手(かみて)・下手(しもて)
舞台に立った状態から見て、右側が「上手(かみて)」、左側が「下手(しもて)」です。
観客席から見ると逆になるので注意が必要です。「上手にハケて」と言われたら、自分から見て右の袖に退場するということです。
「上手」「下手」という呼び方は江戸時代の歌舞伎由来で、現代の演劇でも広く使われています。
センター・上手袖・下手袖
舞台の中央を「センター」と呼びます。「センターに出て」と言われたら、舞台の真ん中に立つということです。
「上手袖(かみてそで)」「下手袖(しもてそで)」は、舞台の左右の幕の裏のスペースを指します。退場した役者がスタンバイする場所です。
客席側・上手奥・下手奥
舞台前方(客席に近い側)を「前(まえ)」または「客席側」、後方を「奥」と言います。
「上手奥に立って」と言われたら、舞台に立った状態で右側の奥に立つということです。
「上手前」「下手奥」などの組み合わせで細かい位置を指定することが多いです。
動き・段取りに関する用語
バミる・バミリ
「バミる」とは、舞台上の物や役者の立ち位置をテープなどで床に印をつけることです。
「そこにバミっておいて」と言われたら、その場所にテープで印をつけるということです。
「バミリを確認して」と言われたら、テープの位置を確認して同じ位置に立つということです。リハーサルと本番で位置を合わせるために使います。
ハケる・はける
「ハケる」とは舞台から退場することです。「上手にハケて」と言われたら、上手の袖に退場します。
語源は諸説ありますが、「はける(掃ける)」から来ているという説が有力です。
「ハケのタイミング」は演出上とても重要で、タイミングがずれると次の場面に影響します。
ケコミ・蹴込み
「ケコミ(蹴込み)」とは、舞台の前縁部分(フロントエッジ)の下の部分、あるいはそこに設置する板のことです。
「ケコミに気をつけて」と言われたら、舞台前方の端に気をつけるということです。舞台から落ちないように注意する場面で使われます。
ダンドリ・段取り
「段取り」とは、舞台上での動きや手順のことです。「段取りを確認して」と言われたら、自分の動きの順序を確認することです。
「段取りが悪い」と言われると、動きがスムーズでない・段取りを間違えているという意味になります。
稽古・本番に関する用語
ゲネプロ(ゲネラルプローベ)
「ゲネプロ」とは、本番直前に行う通し稽古のことです。衣装・照明・音響すべてを本番と同じ条件で行う最終確認の稽古です。
ドイツ語の「Generalprobe(総合稽古)」が語源です。ゲネプロでうまくいかないと「本番は良くなる」という言葉がありますが、それはあくまで励ましの言葉です。
場当たり(ばあたり)
「場当たり」とは、舞台上での動きの確認稽古のことです。台詞より動線・位置・照明の当たり具合を確認することが目的です。
「場当たり稽古」は照明・音響スタッフとの連携確認も兼ねているため、役者だけでなくスタッフにとっても重要な稽古です。
本番(ほんばん)・本(もと)
「本番」はそのままの意味ですが、「本(もと)」と略すことも多いです。
「今日は本だから」「本の前に集まって」などの使い方をします。初日・千秋楽(最終公演日)という表現も覚えておきましょう。
キッカケ・きっかけ
「キッカケ」とは、次の行動・台詞・効果音などを起こすための合図のことです。
「台詞のキッカケで音楽が入る」「登場のキッカケを間違えた」などの使い方をします。キッカケを間違えると舞台全体に影響するため、非常に重要な概念です。
スタッフ・舞台機構に関する用語
大道具・小道具
「大道具」とは、舞台に設置する大型の装置(セット・背景・家具など)のことです。「小道具」とは、役者が持ったり使ったりする物(道具・食べ物・手紙など)です。
「小道具さんに確認して」「大道具の転換」などの使い方をします。
照明(あかり)・音響(おと)
照明を「あかり」、音響を「おと」と呼ぶことが現場では多いです。
「あかりさん確認してください」「おとのキッカケ」などの使い方をします。スタッフとのコミュニケーションで使う表現です。
今日からできること
用語を覚えるだけでなく、実際に使えるようになりましょう。
- この記事を保存して手元に置く
稽古前にさっと確認できるよう、ブックマークやメモに保存しておきましょう。知らない言葉が出てきたらすぐ調べる習慣が大切です。 - 稽古場で実際に使ってみる
「上手に移動します」「バミリを確認してもいいですか?」など、正しい用語を積極的に使ってみましょう。使うことで覚えられます。 - わからない用語は積極的に聞く
稽古場では「知ったふり」が一番良くありません。わからない用語は先輩や演出家に素直に聞きましょう。きちんと質問できる人は信頼されます。 - 舞台を観るときに用語を意識して観る
上手・下手、ハケのタイミング、キッカケなどを意識しながら舞台を観ると、観劇がより学びの場になります。
まとめ:用語を知ることが、稽古場への入口
舞台用語は、稽古場で使われる「共通言語」です。
覚えておくだけで稽古の流れに素早くついていけるようになり、スタッフや先輩俳優との信頼関係も築きやすくなります。
最初はわからなくて当然です。少しずつ覚えながら、稽古場に馴染んでいきましょう。
あなたの舞台への一歩を、心から応援しています。
あわせて覚えたい追加の稽古場用語
板付き(いたつき)
幕が開いた時点、または場面の始まりで、すでに舞台上に俳優が立っている状態のことです。「このシーンは板付きで始まります」のように使われます。
見切れ(みきれ)
舞台袖にいるはずの俳優やスタッフが客席から見えてしまうこと。「そこ、見切れてるよ」と注意されたら、袖の奥に下がりましょう。
ばみる
立ち位置や道具の位置を、舞台の床にテープで印をつけること。「ばみっておいて」と言われたら、専用のテープで目印をつけます。
ダメ出し
稽古後に演出家から出される修正指示のこと。ネガティブな叱責ではなく、作品を良くするためのフィードバックです。メモを取りながら聞くのが基本姿勢です。
抜き稽古(ぬきげいこ)
特定の場面だけを抜き出して集中的に稽古すること。「2場だけ抜きでやります」のように使います。
香盤表(こうばんひょう)
どの場面に誰が出演するかを一覧にした表。自分の出番と着替えのタイミングを把握するための必須資料です。
用語を覚える本当の意味
舞台用語を覚える目的は、知識自慢ではありません。稽古場の会話スピードについていくためです。
稽古の現場では、「じゃあ2場の板付きから、ばみり確認して抜きでやります」といった指示が飛び交います。用語を知らないと、この一言を理解するだけで数秒の遅れが生まれ、その積み重ねが「話の通じない人」という印象につながってしまいます。
逆に、用語が身体に入っていれば、指示への反応が速くなり、現場での信頼が積み上がります。新人のうちは演技力でベテランに敵わなくても、「話が通じる速さ」なら努力次第で追いつけるのです。
覚え方のコツは、単語帳のように暗記するのではなく、実際の稽古や観劇で「使われている場面ごと」覚えることです。文脈と一緒に入った用語は忘れません。
よくある質問
Q. 用語を間違えて使うのが怖いです
新人の間違いを笑う現場はほとんどありません。むしろ「わからないので教えてください」と言える人のほうが好かれます。怖がって黙っているより、使って間違えて覚えるほうが何倍も速く身につきます。
Q. 劇団によって用語は違いますか?
基本用語は共通ですが、細かい言い回しや独自の符丁を持つ団体もあります。新しい現場に入ったら、その場の言葉遣いを観察して合わせるのが賢いやり方です。この「現場ごとの方言に適応する力」も、俳優の実務能力のひとつです。
今日からできること
①この記事の用語を、声に出して例文ごと読んでみる
②観劇のとき、パンフレットや当日運営の言葉から用語を拾ってみる
③稽古やワークショップで聞いた知らない言葉を、その日のうちに調べてメモする
④香盤表や台本の実物画像を検索して、見方に慣れておく
言葉を制する者は、稽古場を制します。楽しみながら、少しずつ現場の言葉に慣れていきましょう。
稽古の流れそのものを知りたい方は「演劇の稽古ってどんなことするの?」もあわせてどうぞ。用語と流れの両方がわかれば、初めての稽古場でも落ち着いて動けるはずです。
用語の由来を知ると忘れない
舞台用語の多くには、歌舞伎や旅芝居の時代から受け継がれた由来があります。たとえば舞台の左右を「上手(かみて)」「下手(しもて)」と呼ぶのは、客席から見て右が上位とされた伝統から。「千秋楽」は雅楽の曲名に由来するといわれます。
由来とセットで覚えた用語は記憶に定着しやすいだけでなく、演劇という文化の歴史を身体に取り込むことにもなります。稽古の合間の雑談で披露すれば、ちょっとした話のタネにもなるでしょう。
用語は先輩たちから受け継ぐ道具です。大切に使って、いつかあなたが後輩に教える番になってください。
最初の稽古場で言葉がわからず心細い思いをするのは、誰もが通る道です。でも、この記事を読んだあなたはもう大丈夫。知らない言葉に出会っても「調べれば済む」と知っていることが、何よりの安心材料です。稽古場という新しい世界の言葉を、楽しみながら自分のものにしていってください。

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