
「アフレコは何となくイメージできるけど、プレスコって何?」
声優を目指して情報を集めていると、ときどき耳にする「プレスコ」という言葉。
アフレコとは逆の収録方式だと聞いても、具体的に何がどう違うのか、現場でどんな対応力が求められるのかまでは、なかなかイメージしづらいものです。
結論から言うと、プレスコとアフレコでは、同じ「声をあてる」仕事でも準備の仕方から演技の組み立て方まで、求められる力がはっきり変わります。
この記事では、2つの収録方式の違いを整理しながら、声優として押さえておきたい4つの対応力の差を解説します。
プレスコとアフレコとは何か
まず、2つの収録方式の基本を整理しておきましょう。
アフレコ(アフターレコーディング)
アフレコは、完成した映像に合わせて声優があとから声をあてる方式です。
日本のアニメ制作では、このアフレコが主流になっています。
映像のタイミング・口の動き(リップシンク)・場面の空気感がすでに出来上がっているため、声優はそれに合わせて演技を組み立てていきます。
プレスコ(プレスコアリング)
プレスコは、プレスコアリング(pre-scoring)を略した呼び方で、アフレコとは逆に、映像が完成する前に声優がセリフを録音し、その音声に合わせて映像やアニメーションが作られる方式です。
海外のアニメーションでは広く採用されている一方、日本のアニメでは採用例が少なく、オリジナル企画などで部分的に取り入れられる程度にとどまっています。
声優に求められる4つの対応力の差
プレスコとアフレコでは、同じ「セリフを演じる」作業でも、求められる力の種類が変わってきます。
現場でよく言われる違いを、4つの観点から整理しました。
- ①タイミングを合わせる力か、間を作る力か
アフレコでは、すでにある映像の尺・口の動きに声を合わせる技術が欠かせません。
一方プレスコでは映像のタイミング制約がない分、声優自身が間や呼吸でキャラクターの時間軸を作り出す力が求められます。 - ②画面を読む力か、言葉から情景を立ち上げる力か
アフレコは画面の表情・動きを見ながら、そこに声を重ねていく作業です。
プレスコは参照する映像がまだ存在しないため、台本の言葉だけでキャラクターの表情や動きを想像し、声に落とし込む力が必要になります。 - ③ディレクションへの反応速度
アフレコ現場では、できあがった映像を見ながら音響監督から「もう少し早く」「ここはもっと感情を抑えて」といった具体的な指示が飛び、その場で演技を微調整する反応速度が重視されます。
プレスコでは演技が先に録られるため、声優の演技そのものが映像制作側の基準になりやすく、自分の解釈をしっかり持って演じる姿勢が求められます。 - ④収録の進み方への慣れ
アフレコは香盤表に沿ってカットごとに進むことが多く、短い区切りでの集中力の切り替えが必要です。
プレスコはまとまった尺のシーンを通しで演じることもあり、長く集中力を保ちながら感情の流れを作る持久力が求められます。
現場から見えるリアル
アフレコ現場では、声優のアフレコ現場マナー5選で紹介しているような香盤表の確認やディレクション対応が日常的に発生します。
台本への書き込み方も収録方式によって変わりやすく、声優のアフレコ台本の書き込み術で紹介している記号は、アフレコ現場を前提にした工夫です。
一方プレスコは、日本では経験できる現場自体が少ないのが実情です。
そのぶん、オーディションやワークショップで「映像なしでセリフを演じる」練習を積んでおくことが、数少ないチャンスへの備えになります。
アフレコ型とプレスコ型、こんな人に向いている
実際のオーディションや現場では「どちらか一方だけ」ということは少なく、両方の感覚を使い分ける場面が多くあります。
とはいえ、自分がどちらの傾向に強いかを知っておくと、練習の優先順位がつけやすくなります。
アフレコ型の感覚が強い人
- 画面や相手の芝居を見てから反応するのが得意
共演者の間やテンポに合わせて、自分の演技を調整するのが得意なタイプです。 - 短い指示を受けてすぐ演技を修正できる
音響監督のディレクションを瞬時に飲み込み、次のテイクに反映する対応力があります。
プレスコ型の感覚が強い人
- 台本の文字だけから情景を描くのが得意
映像の補助がなくても、セリフの行間からキャラクターの状況を組み立てられるタイプです。 - 長尺を通しで演じる持久力がある
細切れのカットよりも、感情の流れを最初から最後まで作り込む演技に強みがあります。
どちらか一方を選ぶというより、普段の自主練でアフレコ型・プレスコ型の両方を意識的に取り入れておくと、現場の違いに戸惑いにくくなります。
セルフテープ収録とプレスコに共通する力
近年のオーディションで増えている自宅でのセルフテープ収録も、実は「完成した映像なしにセリフを演じる」という点でプレスコに近い感覚が求められます。
映像や相手役がいない状態で、台本の情報だけから状況を組み立てて演じる練習は、そのままプレスコ対応力のトレーニングにもなります。
セルフテープの収録環境づくりについては、声優のセルフテープ収録環境術でマイクや防音の工夫を詳しく紹介しています。
あわせて確認しておくと、プレスコ的な演技力と収録技術の両方を同時に鍛えられます。
なぜ海外ではプレスコが主流なのか
欧米のアニメーション制作では、プレスコが広く採用されています。
声優の演技を先に録音し、その呼吸や間の取り方に合わせてキャラクターの動きや表情を作り込めるため、演技のニュアンスがそのまま映像に反映されやすいのがメリットです。
一方、日本のアニメ制作は放送スケジュールが詰まっていることが多く、絵が完成してから声をあてるアフレコのほうが進行上都合がよいため、長らく主流になってきました。
それでも「エスタブライフ グレイトエスケープ」のように、オリジナル企画でプレスコを採用する作品も登場しており、今後プレスコ的な演技力が求められる場面が増える可能性もあります。
どちらの方式が主流になるとしても、両方の感覚を自分の引き出しとして持っておくことが、長く声優として活動していくうえでの強みになります。
ゲーム収録に見るプレスコ的な進め方
ゲームのボイス収録でも、プレスコに近い感覚が求められる場面があります。
イベントシーンのモーションやムービーが完成する前にセリフだけを収録し、あとから映像側がそれに合わせて作り込まれるケースが珍しくないためです。
ゲーム声優の収録現場で紹介しているように、アニメのアフレコとはまた違った準備やテンポ感が必要になります。
プレスコ的な演技力は、アニメだけでなくゲーム収録の場でも役立つ場面が多いということは、覚えておいて損はありません。
プレスコ的な演技力を鍛えられる場
映像のない状態で演じる経験は、特別な現場でなくても積むことができます。
朗読劇、オーディオブックのナレーション、ラジオドラマといった「声だけで情景を立ち上げる」仕事は、プレスコで求められる力をそのまま鍛えられる場です。
養成所や専門学校のレッスンでも、台本の読み合わせだけで場面をイメージする課題が出ることがあります。
そうした課題を「ただのレッスン」で終わらせず、プレスコ対応力のトレーニングだと意識して取り組むと、同じ時間でも得られるものが変わってきます。
日頃からこうした経験を積んでおくと、プレスコの現場に限らず、通常のアフレコでも画面に頼りすぎない芝居ができるようになり、結果的に演技全体の幅が広がります。
オーディションで聞かれたときの心構え
養成所や事務所のオーディションでは、面接の中で「プレスコとアフレコの違いを説明してください」と聞かれることがあります。
これは知識そのものを試すというより、現場ごとに求められる演技が変わることを理解しているか、を見る質問です。
言葉の定義を暗記するだけでなく、この記事で紹介した4つの対応力の違いを自分の言葉で説明できるようにしておくと、質問の意図に沿った受け答えがしやすくなります。
舞台やナレーションにも通じる視点
プレスコとアフレコの違いは、アニメ・ゲームの声優業に限った話ではありません。
舞台では相手役の反応を見ながら演技を組み立てる力が、ナレーションでは映像や音楽に頼らず言葉だけで情景を伝える力が、それぞれ求められます。
声優として収録方式ごとの対応力を意識して鍛えておくことは、結果的に舞台やナレーションなど他の表現の場でも活きてきます。
今日からできること
- 台本だけを読んで情景を思い浮かべる練習をする
映像を見ずにセリフだけから場面を想像し、声に出してみましょう。プレスコ的な演技力を鍛える基礎になります。 - アフレコ動画で口の動きに声を合わせる練習をする
既存のアニメやCM映像を使い、口の動きにセリフを重ねる練習は、アフレコで求められるタイミング感覚を養います。 - 収録当日の流れを事前にイメージしておく
声優の収録当日5つの流れを読んで、本番までの段取りに慣れておくと、現場での対応力に余裕が生まれます。 - ディレクションを受けた演技の引き出しを増やす
同じセリフを複数のテンションで演じ分ける練習は、アフレコ現場での的確な修正対応に直結します。
まとめ
プレスコとアフレコは、どちらも「声で演じる」仕事でありながら、求められる対応力には明確な違いがあります。
タイミングを合わせる力、情景を立ち上げる力、ディレクションへの反応速度、収録の進み方への慣れ――この4つを意識して練習を重ねることで、どちらの現場にも対応できる声優に近づいていけます。
あなたの声優としての挑戦を、心から応援しています。

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